たぶん、黄瀬君を壊してしまったのはボクで それを心の奥で喜んでいるボクも、きっと同じように狂ってる。 だからきっとボクら以外のものがせめてきれいであればと それだけを願った。 視界を覆う、抜けるようなそらのあおさに、 ボクは何を求めたのかな。 |
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色褪せていく空のような瞳で | |||||
赦されたかったんだろう、本当は。 「黒子っち、会いたかったっス」 「…ボクも、です」 放課後、あたりまえのように合流して、彼はあたりまえのようにボクの肩に手を回した。ボクは一瞬だけ嫌がる素振りを見せ、結局はそのまま肩を抱かれる。毎日繰り返される、再会のシステム。彼は呪文のように何度もボクを好きだという言葉を口にし、ボクは自分もだと応えてトビラを開く。 ほんとうは、物理的にだって独占していたい。心だけじゃなくて。 他の誰かといっしょにいる黄瀬君なんか見たくない。そう思ったこともあった。どこかに閉じ込めてしまえば楽なのにと、本気でそう考えて、やり方を思案したことも。 でも、今は違う。今ボクらは普段どおりに日常を消化して、こうして放課後や休日に会う。表向きはごく普通の、他校の恋人に接するような行動を取ってる。 熱が冷めたのかと問われれば、違うと即座に答えられる。それくらい、余裕なんかとうに消え失せた。 つまり、目に見えて彼を閉じ込めようとしなくなった今の自分のほうが、以前より余程、彼を独占したいと狂おしいほどに思っているんだ。 言うなればきっと、赤よりももっと高熱で静かに燃え続ける青い炎のような内側の熱。臨界点を超えたそのさきにある感情。 きっと端から見れば、この異常なほどの熱量は気づかれない。気づかれないようにしている、といったほうが正しい。 ボクらはとても微妙な、それこそミリ単位の間隔で相手との距離をはかりながら、相手を傷付けないように独占するすべを模索しているような気がする。 「今日は、どうしましょうか。マジバにでもいきますか?」 (ほんとうはふたりだけでいたいほかのだれかなんていらない) 「そっスねー、いいスよ、バニラシェイクおごるっス」 (寄り道なんかしなくていいからすぐにでもふたりきりになりたい一秒でもオレ以外の人目に黒子っちを晒しておきたくないのに) 本心を心の奥底に押し隠して告げる言葉だって決して嘘じゃない。それでも、表に出さないその熱があまりにも強くふたりを結びつけるから、その言葉がやけに薄っぺらなものに思えてしまうんだ。 「あ、待って。やっぱり…、ふたりきりが、イイ」 そうしてどちらかの堰が決壊してしまえばお終い。今日は黄瀬君だった。 表向きひどく動揺しているかのような自分を、ボクは冷静に眺めて、その瞬間からボクらは周りの世界を切り捨てる。 「…きょうはどちらの家に、しましょうか」 承諾を前提に尋ねられた問いに、黄瀬君はほっとしたように、次いで少し狂気を孕んだ表情で、笑った。 褪せて色をうしなってしまったような空と同じ瞳で、ボクを独占する彼。 物理的な独占欲を制御してよかったと思うのは、こういう時だ。 ボクは黄瀬君から太陽のような笑顔を奪うことを恐れて、普通の恋人同士のように振舞うことを選んだくせに 実際は狂気を孕んでボクを独占したいと告げる黄瀬君の笑い方も、ボクだけのものにしていたくて、無意識にこういう手段を取っていた。 「たったいまから、次に家を出るまで。それまでは、オレだけの黒子っちでいて」 本当は、とっくに心ごと独占されてる。それでも敢えて制限をつけることで、互いが互いから逃げられないようにした。 この選択を、後悔なんてしない。 「はい」と答えた声はきっと掠れて声にはならなかったけれど、同じように色をうしなった表情でボクも笑う。 見上げた空は相変わらず抜けるような青さで、これはボクらが永遠に失ったものなんだと痛感させられた。 降り注ぐのが光ではなく無限に降る雨でも、その場所が出口のない迷路でも、ボクは黄瀬君となら止まることなく歩き続けていられるから、 ニセモノの太陽を作り上げたふたりだけの世界で、せめてこの空だけは、青く澄み続けていて。 枯れて、すっかり渇いてしまった涙の痕。 ボクがなくした黄瀬君の笑顔と、引き換えに。 by 和泉かける様(09/08/30) site:Coffin of the Hermit |
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