嘲笑う






「黒子っち、迎えに来たっスよ!!」
「僕は今日は火神君と帰るので黄瀬君は帰ってくれて構いませんよ。」

まただ。
また黒子っちは火神を優先する。

俺がそれなりに距離があるのにも関わらず毎日迎えに来てる理由を知らないわけじゃない。
だって、俺が誠凛に来るまでは必ず学校に残っているのだから。

「すみません火神君、練習につき合わせてしまって。」
「いや、俺は構わねぇけど・・・黄瀬は・・・」
「放っておきましょう。早く帰りますよ。」

荷物をまとめてそのまま体育館から出て行く。
俺の姿には目もくれずに。

どうして。

黒子っちの視線は常に俺の元になくてはならないのに。
違う学校だってだけで俺は十分譲歩しているというのに。

許せない。

バスケでさえ火神を優先しているのに私生活まで火神を優先するなんて。

黒子っちは、俺だけのモノなのに。

「火神っちが・・・・邪魔なんスよ。」

呟いた声は、もう先を歩いてしまっている黒子っちにも、火神にも届かない。
返事がない言葉に、馬鹿みたいに黒子っちを束縛してる自分に嘲笑した。

それでも、火神の存在を失くしてでも俺は黒子っちを離さない。

だって黒子っちは俺のモノ。







「なぁ、黒子。」
「言われなくても気づいてます。」
「ならなんで・・・。」

学校帰りに火神君とマジバーガーに寄るのは通例と化した。
最初はそれでも黄瀬君を優先させようとも思った。
それでも、僕はそれよりも面白いモノを見つけてしまった。

僕が火神君と帰ると言ったときの黄瀬君の表情。
目を見開いて、愕然とするその表情がたまらなく愛しい。

僕だけを見ていて、僕が他へ視線をずらすのを極度に恐れている。
2人でいるときに火神君の話題を出したりでもしたら、その口はふさがれる。

そういう時にいつも見せる、泣きそうな目。
苦しそうな表情。
その全てが僕を悦楽へと導く。

「お前さ、黄瀬のこと嫌いなわけじゃないんだろ?」
「何を言ってるんですか。僕は黄瀬君のこと、好きですよ?」
「ならなんで・・・・。」
「理由を火神君に言わなくてはならない義務はありませんから。」
「・・・・・なら俺を付き合わせるなよ。」

溜息を吐いた火神君を横目に僕は笑みを浮かべる。

きっとこのあと黄瀬君と合流したときに、彼は僕を責めるのだろう。
自分以外を視界に入れるなと。
火神君のことは考えるなと。

僕はソレを黄瀬君に言われる度に笑みが零れる。
僕は今も黄瀬君に可笑しいほどに愛されていると分かるから。

「じゃあ、僕は帰りますから。」
「はぁ・・・・じゃあな。」

僕達の席とは距離を置いた後ろの席に座っている黄瀬君のところへ向かう。

きっと火神君は僕の理由を聞いたら顔を引きつらせるんだろう

火神君に向ける醜い嫉妬心の映る瞳を見るのが堪らなく好きだから。
その瞳を見るたびにゾクゾクして黄瀬君を求めている自分がいるからだなんて。





「黒子っち。」
「なんですか黄瀬君。」

俺が何を言いたいかなんて
黒子っちはとっくに分かってるはずなのに。

「火神っちに近づきすぎっスよ。
 黒子っちは俺のモノなんス。他の誰にも渡さないっスから。」
「なら、僕を離さないようにしてくださいね?」
「っ・・・・。」

声は優しいのに、言葉は優しくない。
まるで、俺だけが悪いかのように言われる言葉。

『僕が火神君のところへ行ってしまっても、ソレは黄瀬君のせいですから。』

そう言われている感覚に陥って、泣きそうになる。

「・・・・離さないっスから。
 俺、黒子っちのこと、離さないっスから。
 だから・・・・・俺から離れていかないで。」

俺がそういうと、いつも黒子っちは俺の顔を見る。
そして言うんだ。

俺を馬鹿にしたように笑いながら

「全く・・・黄瀬君は本当に僕がいないと駄目ですね。」



嘲笑う

――人をばかにして笑う。せせら笑う。あざけり笑う。嘲笑する。――

(黄瀬君は本当に馬鹿ですね。僕が君以外にこんな欲望をぶつけると思っているんですか?
本当は僕なんですよ。僕は黄瀬君がいないと駄目なんですよ?)



by 彩様(09/11/17) site:五月雨

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